想妖匣-ソウヨウハコ-

 自分が出れない事はもちろん許せないが、それより自分の変わりが今まで雑用に使っていた秋だったため、自分が秋より劣っていると悲観してしまい感情のまま林の中を歩いていた。

 風が吹く度、巴を囲う木が音を鳴らし揺れる。奥に行けば行く程光が届かなくなり、辺りが暗くなってきた。そんな状況だが巴は気にならず、怒りのまま進む。

「あいつ! あの噂の所に行ったんだわ。じゃなかったらありえない!!」

 巴が向かっているのは、秋もお世話になった”匣を開けてくれる小屋”だ。

「ふざけんじゃないわよ。ふざけんじゃないわよ!!」

 叫びながら必死に歩いていると、いきなり開けた所に辿り着く。そこには、古い小屋がポツンと木々に隠されるように建てられていた。

「ここね!」

 巴は小屋を見つける事が出来た喜びで目を輝かせ、片足を引きずりながらドアを乱暴に開ける。
 中を見回すが誰も居なく、人の気配すら感じられなかった。

「ちょっと! ここなんでしょ、出てきなさいよ! 匣を開けなさいよ!!」

 小屋の中に向かって甲高い声で叫ぶが、人が出てくる気配が全くない。家主を探すため、小屋の中に入り込みソファーの背もたれや本棚を使い歩き回る。だが、どこにも誰もいない。

「っつ!!!」

 捻挫した足に痛みが走り、顔を歪めその場に膝をつく。歯を食いしばり、眉を顰め痛みが治まるのを待つ。
 数秒で痛みが和らいできた巴は、血走らせた目を前に向け、唸りながら再度立ち上がる。

「あのクソ女。絶対に許さないんだから!!」

 憎悪の籠った声が響き、巴はテーブルを思いっきり叩いた。

「ちっ。早く出てきなさいよ!!」

 巴の声を合図に、奥にあるドアがゆっくりと開く。そこからは欠伸をしながら、面倒くさそう首を鳴らす明人が姿を現した。
< 34 / 66 >

この作品をシェア

pagetop