想妖匣-ソウヨウハコ-

「たくっ、うるせぇな。こっちは仮眠中なんだよ」

 なぜか明人の態度が秋の時とは違う。
 言葉遣いや態度、立ち居振る舞いがまるで別人のように感じる。だが、巴は明人の紳士的な態度など知らない。そのため、今の態度に違和感を感じず彼へと近付いて行く。溢れる怒りを隠しもせず、叫ぶように明人へ問いただした。

「ここって人の望みを叶えてくれるんでしょ?! だったら、私をバスケの試合に出せるようにして!!」

 怒りで興奮状態の巴を、明人は蔑むような目で見下ろしながら両手で耳を塞いでいる。キィーキィーと叫ばれ、明人はげんなりとした顔を浮かべ耳を塞ぎ明後日の方向に目を向けた。

「ぎゃーぎゃーうるせぇよ……。なんの話しだ」
「なんの話しじゃないわよ! 噂でここは望みを叶えてくれるって流れているのよ!!」

 麗の言葉に明人はめんどくさいというように眉間に皺を寄せる。ため息を吐き、耳を塞ぎながら聞き返す。

「お前、何勘違いしてんだよ。望みだぁ? んなの叶えられるわけねぇだろ」

 明人から言い放たれた言葉に、巴は聞いていた話と違うと叫び散らし始める。いい加減にしてほしく、明人は巴の両腕を拘束するように掴んだ。その事に驚き、彼女は一瞬言葉を詰まらせる。明人を見上げ、怒りの表情を見せた。

「ふざけないで。試合に出るのは私よ。あんな雑魚が私を差置いてなんて、絶対に許さない!! 私が、あんな奴に負けるなんて!!」
「そんなに人を見下したいのなら、いい方法があるぞ」

 巴がぶつぶつと呟いていると、明人が耳から手を離し問いかけた彼の口角はなぜか上がっており、獲物を狙う獣のような瞳を浮かべている。そんな明人の目線は巴へと注がれる。

「どんな方法よ、私にやって!!」
「そうか。なら、少し待ってろ」

 それだけ伝えると、明人は奥のドアに姿を消した。入れ替わりに、カクリが巴の前に立ち見上げる。

「本当に良いのかい?」
「何がよ。餓鬼が大人の会話に入ってくるんじゃないわよ」
「自分が大人だと勘違いしているみたいだね。怒りに身を任せ、ただただ喚き散らしているだけの子供だというのに」
「なんですって!?」

 カクリの言葉に言い返そうと右手を伸ばし、彼の胸ぐらをつかみ上げる。彼は軽いため、女の巴でも簡単に持ち上げる事ができた。

「もう一回行ってみなさいよ。私が、なんだって?」
「何度でも言おう。君は、感情を制御できず、ただ怒りのまま行動している子供だと。嫌、子供の方がまだましなのかもしれないね」
「言わせておけば!!!!!」

 巴が左手を振り上げた時、奥のドアに姿を消した明人が戻ってきた。そのため、巴の振り上げられた左手は動きを止める。

「あまりうるさくすんじゃねぇ」

 二人からの視線を気にせず、明人は頭を乱暴に掻き近づく。開いている方の手には秋の時と同じく、黄色の花が浮かぶ小瓶が握られている。
 そんな小瓶を弄びながら、彼女の目の前に立った。
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