想妖匣-ソウヨウハコ-
 小屋の中、明人は機嫌が良いのか鼻歌を口ずさみながらソファーに寝っ転がっていた。

「〜〜♪」
「機嫌が良いらしいな」

 カクリは木製の椅子に座り、本を読んでいた。だが、明人の様子が気になり、目を細め怪訝そうに彼を見て問いかけた。

「こんなに真っ黒な匣は最近なかったからな。いやぁ、あんなにビビってくれるとは。嬉しいなぁ」

 巴の匣は真っ黒に染まっており、開けるのは困難だった。
 開けられない事は無いが、それにはそれ相応の代償が必要になる。だが、今回の依頼人にはそれを賭けるほどの価値はないと判断し、匣を開ける代わりに抜き取ったのだ。

 匣とは人間の”感情”が入っている物。もし、その匣が無くなってしまったら──

「これからあいつはどうなっていくのかねぇ。俺には関係ない話だがな」
「……では、頂くぞ」

 カクリが手を差し出し、寄越せと言わんばかりにソファーに寝っ転がっている明人を見下ろす。

「ちぇ。ほらよ」

 不機嫌そうに明人は、カクリに小瓶を差し出した。

「今回は疲れたなぁ。俺は寝る」
「ちょっと待て。なぜこれなんだ」

 カクリの手には小瓶が握られている。だがそれはカクリが欲した物ではなく、明人が依頼人を眠らせるために使っている、黄色の花が浮かんでいる小瓶だった。
 これにはカクリの魔力が入っており、普通の人なら匂いを嗅ぐだけで眠りについてしまう。

「お前が渡せって言ったんだろ」
「私が言ったのはこれでは無い。お前のポケットに入っている方だ」
「へいへい」

 そして、今度こそと思ったカクリだったが詰めが甘かった。次に明人が渡してきた物は空の小瓶だ。これは、依頼人の抜き取った匣を入れるためいつも持ち歩いていた。

「……」
「んじゃなぁ」
「ふざけるな!!」
「いって!!」

 カクリは明人から受け取った空の小瓶を彼目掛けて思いっきり投げた。真っすぐと明人の後頭部に向かい飛んでいき、彼の後頭部にクリンヒット。痛々しい音を鳴らし、床に落ちる。
 ちょうど小瓶の角が頭に当たってしまったらしく、明人は声を上げながら頭を押さえその場にしゃがみ込んだ。
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