想妖匣-ソウヨウハコ-
李津が朱里を引っ張り、林へと向かい始めてから二十分位で目的の場所に辿り着く事が出来た。
「ここかな?」
朱里達の目の前には緑が生い茂っており、風が吹く度カサカサと葉音が聞こえる。
自分達より大きな木が沢山立ち並び、入ってしまうともう戻れなくなってしまうような雰囲気に、二人は仲に入ろうとしない。だが、ここまで来た以上、引き返すのも勿体ないと感じ、李津は朱里の手を離さず一歩足を前に出した。
「そ、それじゃ進もうか」
「ねぇ、本当に行くの?」
林の中を覗くと薄暗く、雰囲気が怖いため入るのが戸惑われる。それでも李津は、朱里と中へ入ろうと腕を引いた。
「大丈夫だって。ほら、行くよ?」
「あ……、待って!!」
李津に手を引っ張られ、そのまま林の中へと足を踏み入れた。
林の中は、女性二人が縦で並ばないと進めないほど細く、道を逸れてしまうと草木で手や足が切れてしまう。
二人の足音だけがカサカサと響き、朱里は怖くなり李津の手をぎゅっと握った。不安な気持ちを少しでもなくすため、ピタッと後ろを付いている。
「ちょっと、歩きにくいわよ」
「だって……。ねぇ、もうやめよう?」
二人が林に入ってから三十分くらいは経過していた──にもかかわらず、噂である小屋は見えてこない。奥に行けば行くほど太陽の光は遮られ、足元が見えにくくなる。先が暗く、鳥の羽ばたく音だけでも驚き二人は声を上げていた。
「まぁ、そうだね。やっぱり、噂は噂なのかな」
李津が不満そうにだが帰る意思を見せ、朱里は安堵の表情を浮かべ引き返そうと振り向いた。だが、何故か踏み出そうとした足を突然止め、周りをキョロキョロと見回し始める。
「あれ、なんだろう……」
「どうしたの? 朱里」
「うん……」
朱里は周りを見回すが、あるのは先程と同じように木々ばかりだ。他に変わったものなどはない。だが、彼女は何かを感じているのか、周りを忙しなく見回している。そして、道から逸れるようにいきなりゆっくりと歩き出してしまった。
「あ、朱里? ま、待って!!」
突然歩き出してしまった朱里の後ろを、李津は慌てて付いて行く。
今までとの様子の違いに、まるで他人に操られているように感じ始め、李津は腕を掴もうと手を伸ばす。だが、タイミングよく突風が吹き荒れ、李津は咄嗟に顔を隠すように手で覆った。
「ちょっ、なに?!」
突然吹き荒れた突風はすぐに止み、李津はゆっくりと顔を上げ手を下げた。すると、何故か先程まで何も無かった空間が急に開かれ、そこには古い小屋がポツンと建てられていた。
「──え」
驚きの声を上げ、李津は朱里を見る。すると、彼女も何故か驚いた表情を浮かべながら小屋を凝視していた。
顔を青くし、口元を震わせている。
「うそ。さっきまでなかったのに……」
二人は突如として現れた小屋に対し恐怖を感じ、そのまま後退りしてしまっている。それでも、目を離すことが出来ないらしく、目線だけはずっと小屋に注がれていた。