想妖匣-ソウヨウハコ-
「秋? 何かあったの? 何かあるんだったら言って?」
「な、何もないよ。にして噂の小屋なんて見えてこないねぇ」
誤魔化すように秋は麗の横を通り過ぎ、前に出て林を進んでいく。そんな後姿を見て、麗は悲し気に眉を下げ胸元に手を添える。すると、秋の驚きの声が聞こえハッとなり、駆け足で秋に追いついた。
「──もしかしてここ?」
秋に追いついた麗は、彼女が見ている景色と同じ物を見るため前を向いた。そこには、古く今にも崩れてしまいそうなボロい小屋が周りの木々に隠れるように建てられていた。
二人は顔を見合わせ、もう一度小屋を見る。二人は不思議に思いつつも、吸い寄せられるように足が自然と小屋に近付いていた。
よくよく小屋を見ると、壁画ははがされ、屋根には蜘蛛の巣が張っている。
廃屋だと言われても不思議じゃない見た目に、二人は疑いの目を向けた。
「ここじゃないんじゃない? こんな所にイケメンが住んでるわけないじゃん」
「それ、絶対に関係ないと思うけど……」
秋は麗の言葉に溜息をつき、再度目線を小屋へと戻した。何か気になり、胸元に手を持っていききゅっと服を握る。
「とりあえず中に入ってみない?」
「秋がそう言うなら…………」
今度は秋が先に進み、麗がその後ろを付いて行く。
不安でいっぱいな麗は、離れないように秋の肩に手を置き離れないように気を付けていた。
先行している秋はふと、足元に目を移す。雑草などはここだけ生えておらず、人の出入りがあるように思えた。
「開けるよ?」
「うん」
秋は後ろで震えている麗に確認した後、ゆっくりとドアノブを捻り少しだけ開けた。
隙間から顔を入れ中を覗いてみるが、中に蛍光灯などがないのか真っ暗で何も見えない。
「も、もう少し開けてみるよ」
「うん……」
中を見るため、もっとドアを開く。すると、外から入ってくる少しの光で内装がようやく見えてきた。だが、二人が思い描いていた物ではなく驚愕の表情を浮かべてしまう。
「なに、これ……」