想妖匣-ソウヨウハコ-
「おいおい、久しぶりに先輩が会いに来てやったんだからよ。顔上げろって」
「いえ、すいません。あの……」
戸惑いながらも彼女は、何とか顔を出さないように資料で隠している。すると、青夏が次にムスッとした表情を浮かべ資料を取り上げた。
「なんなんだそれ。俺の顔はもう見たくないって事かよ」
わざとらしく不貞腐れたような声を出す青夏に、朱里はハッとなり咄嗟に手を離し彼を見上げた。
「見たくない訳じゃなっ……い……」
咄嗟の事とはいえ、朱里は勢いよく真っ赤な顔を向かせてしまう。
青夏はしてやったりと言うような表情で笑い、その表情を目の当たりにして、彼女の元々赤かった顔がゆでダコのようにさらに真っ赤になった。
「ほんと、意地悪ですよね!!」
「騙されるお前が悪いんだろ」
「酷いです!」
仲良く話している光景を見せられている李津は、ジト目で朱里を睨んでいた。
「李津。顔が、怖い」
「気にしなくていいよ? もう全然気にしないでイチャついてていいよ」
見た目は笑顔だが、どす黒い何かを纏い二人を見ている。
これは誰もが怒っていると分かるほど黒いオーラを放っているため、青夏も顔を青くし身震いしていた。
「ところで青夏先輩。今噂になってる事なんですけど事実なんですか?」
「ちょっ、李津!!」
李津の表情が戻ったと思った瞬間、朱里の悩みである噂について突然問いかけた。
急いで李津の口を塞ごうと手を伸ばしたが遅く、今の質問はしっかりと彼の耳に届いてしまう。
「噂? あぁ、あいつとはなんもねぇよ」
その時の表情は少し複雑そうで、何か思い悩んでいるように影が差す。
「じゃ、あの噂は嘘ですって逆に流せば万事解決じゃないんですか?」
「簡単にいかねぇだろ。つーか、どうでもいい」
「そうなんですねぇ」
二人の会話はそこで終わり、青夏は自分の教室へと戻って行く。
「良かったじゃん。これで何も考えずに先輩と話せるし」
「うん……」
「どうしたの? まだ何か不安なの?」
心配そうに顔を伺う李津だったが、朱里は青夏の背中を悲しげな表情で見続けるばかりだった。