想妖匣-ソウヨウハコ-
「もしかして、あれ本気だと思ってたの? そんな訳ないじゃない。少し考えればわかるでしょう。馬鹿な子には分からなかったのかなぁ」
江梨花の言葉に、後ろの二人がクスクスと笑う。
「なんで、そんな事したんですか……」
「聞いてたから知ってるんじゃないの? 盗み聞きしてたんだからさ」
”盗み聞き”の部分を強調するように言う江梨花は、勝ち誇っているように笑みを崩さない。三人で笑い、朱里を陥れる。
朱里は恐怖で何も言えず、顔を真っ青にし、わなわなと震えていた。
「ちょっと、その子怖がってるじゃない」
江梨花の後ろにいる一人が声をかけるが、その声も笑いが含まれており助ける気なんて全くない。ただ楽しんでいるだけのようだった。
「酷い……」
「盗み聞きしてた方が酷いと思うんですけど?」
三人の人を馬鹿にするような笑い声が響き渡る美術室。
朱里は歯を食いしばり江梨花を睨み、文句を言おうと口を開くが、ドアの方から聞こえた声により途中で止まってしまった。
「何してんだ?」
ドアから聞こえたのは、男性の声。今の朱里にとって、一番聞きたくない声がドアから聞こえ、震える体で振り向いた。そこに立っていたのは、怪訝そうに眉を顰め、肩に鞄をかけている青夏だった。
青夏の姿を確認すると、朱里は先程より更に顔を青くし逃げるように後退る。
「え、ど、どうしたんだ?!」
青夏は慌てて美術室の中に入り、朱里に駆け寄る。本人は彼の顔を見る事が出来ず、朱里は俯いたまま動かない。
後ろにいる江梨花に今にも噛みつきそうな表情で睨み歯を食いしばっている。すると、何か面白い事が思いつき、彼女は猫なで声で青夏に近付き腕に絡みついた。