想妖匣-ソウヨウハコ-
秋が小さく言葉を零しながら周りをゆっくり見回し、麗は先ほどまで震えていたが、今は興味の方が勝り目を輝かせながら楽しそうに周りを見渡していた。
中は綺麗に整頓されており、外観からは考えられない光景だった。
左右の壁側には天井につきそうなほど大きな本棚があり、部屋の中心には少し大きめなテーブル。出入口へ向けられた木製の椅子が傍に置いてあり、その向かいには、白く座り心地が良さそうなソファーが置いてあった。
その奥にはドアがある為、部屋はここだけではない。
家具がほとんど木製で統一されており、暖かい印象を与える部屋になっていた。
「凄いね、ここ」
「外からじゃ考えられないね」
二人で部屋を見て回っていると、いきなり奥のドアがゆっくりと開いた。
「お客さんかな。出迎えが遅れてしまって申し訳ありません」
優しく、人を包み込むような声が聞こえ、二人は慌てて声が聞こえた方を振り向く。そこに立っていたのは、白いポロシャツにジーンズと。シンプルな服を身にまとった青年だった。一目見ただけで独特な雰囲気を纏っていると察する事ができ、息が詰まる。
青年は藍色の髪を揺らし、漆黒の瞳を二人に向けている。そんな瞳は左目しか見えておらず、長い前髪で右半分を隠していた。
秋は青年の黒い瞳に吸い込まれてしまいそうな感覚に襲われ、咄嗟に目を逸らす。麗は見惚れてしまい、満面な笑顔を浮かべ見続ける。
動かなくなった二人を目にし、青年は安心させるように微笑みかけ優しく声をかけた。
「お客さん、こちらへ」
右手をソファーに添え、二人を促す。秋と麗は言われるがまま、静かにソファーへと腰を下ろした。