俺が優しいと思うなよ?
獣のお誘い

「む…無理です!」
「往生際が悪い。腹を括れ」
「そんなこと言ったって…無理なものは無理なんです」
「無理でも諦める気はない。お前が欲しいんだ」
「そんな…」

夜の八時。
たくさんの人の往来する駅前ロータリーで。
仕事で疲れた体を引き摺るようにズルズルと歩いていた私に。
腕をガシッと掴まれて、
「観念しろ。もう離さないぞ」
と、息を切らして声を上げる男がいた。

「はあ…?」
初対面の相手に、私は眉を寄せてあからさまに嫌そうな顔をした。
それもそうだ。
この仕事を始めて約三年、周りから目立たないように息を潜めて生きてきたのに。都心の駅前の人に囲まれたここで、間違いなく女性たちが二度見するほどの綺麗な顔立ちの男が、冴えない女を捕まえて「離さないぞ」なんて言えば目立たないわけがない。

一刻も早くこの場から立ち去りたいのに、男は手を離してくれないし。
腕を掴まれた男の手に視線を移してどうしたものかと思っていると、
「なになに?愛の告白?」
「あんなイケメンに告白されるなんて羨ましい」
等というセリフが聞こえた。
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