俺が優しいと思うなよ?
本当に欲しいものは (柊吾side)


「……は?なんだって?」

ホテル・ラグジュラリオスの一階のロビー。さっきまで大政建設創立六十周年記念パーティーに出席していた多くの来賓の方々が、ここで談笑したり帰宅のためにホテルの外へと足を運んでいる。
その中で俺に声をかけてきたのは、部下の倉岸麗香だった。彼女が我が社のボスである響社長の恋人であるということは、社内でもほとんど知られていない事実である。が、彼女は「彼は芸能人じゃないんです」と言って堂々と響さんに会う姿が、逆に清々しく見える。

倉岸は俺に手を差し出した。その手のひらにはパールのネックレスが乗っている。俺が三波の首につけたネックレスに似ていた。
彼女は困り顔でピンクの唇を開く。
「三波さんから預かりました。彼女、タクシーに乗って行っていかれましたけど、酷く落ち込んだ感じでした。何があったか知りませんが、大人なんですからちゃんと話し合った方がいいですよ」
「……。」

受け取ったネックレスは一粒一粒が、しっとりと濡れているように輝いていた。


──三波の奴、また詩織に振り回されやがって。

俺と詩織との関係を一から十まで語り三波の誤解を解いたのは、つい昨日のことだった。納得してくれたと思っていたのに、また今日も詩織に何かを吹き込まれ、挙句に逃げるようにホテルから出て行ってしまった。
しかも、少なからず独占欲が見え隠れするこのネックレスも呆気なく外されてしまう始末だ。

何やってんだ、俺は。

今日の目的は三波を大政建設社長である親父に会わせることと、今回の教会のコンペについて親父の反応を窺うことだった。実際、ほんの少しの時間だったが三波と親父の顔合わせが出来たことは、ミッション達成といってもいいだろう。親父は人の顔を忘れない人間だ。

< 123 / 180 >

この作品をシェア

pagetop