俺が優しいと思うなよ?

「そんなに怖い顔しないでよ。こんなこと今までに何回もあったでしょ。柊吾だってその度に面倒なことから逃げられてラッキーだったじゃない。あの人だって大人なんだから一人で帰れるわよ」

しおりのその言葉に、俺は初めて「ああ、そうだったのか」と自分を恨んだ。

学生時代、確かに何度も女たちに追い回され、その度に詩織に助けられたことがあった。俺たちが本当に付き合い始めた理由にも、これが含まれている。お互い愛のある恋人同士に、お互いに異性を寄せつけない「除けるアイテム」だった。
俺にとって詩織と別れたことで後者はとっくに無いものとなっていたのに、詩織にとっては今もなお継続しているものなのだ。

詩織は先日から俺との関係をやり直したいと言い出した。幼馴染みの元カノ相手だ、「付き合う気はない」とやんわりと断っているが相手はこうやって食い下がってくる。
それに今日はパーティーといえ、会社の人間として親父に会うというビジネスの一つとして三波とここにいるのだ。

……例え、この後、少しの下心があったとしても。


「ねえ、飲みに行きましょ?」
と、俺の腕を詩織の白い手が引っ張る。そっとその手を離した。
ちゃんと詩織に言っておかなければ。
「詩織、俺たちがここに来たのは仕事としてだ。三波と今後の仕事の話もしなければならなかった。俺の断りもなくお前に言われて帰った三波も悪いが、俺をダシに使って三波を帰らせたお前も悪い」
「帰ったのはあの人の意思でしょ?私は関係ないわよ」
あくまで自分は悪くないと主張する幼馴染み。
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