俺が優しいと思うなよ?
倉岸は微笑む。
「部長、チームのみんなが心配していたこと知っていましたか?数年間タブレットの中の彼女がとうとう現実となって現れたのに、二人の間に何も進展がなくて町田さんたちなんてヤキモキしてたんですよ」
「えっ?」
目を丸くして驚く俺に、彼女がクスクスと笑う。
「みんな知っていましたよ。いつも持ち歩くタブレットにおかっぱ頭の女の子の写真が入っていることを。少し幼い感じですけど、あれ、三波さんですよね?」
「……」
倉岸といい、あいつらといい、どこで知ったんだか。
確かに俺の仕事用のタブレットに一枚だけ仕事に不釣り合いな写真がある。まだ学生時代に咄嗟に隠し撮りした三波の写真だ。
俺の弱みを握っているかのように、倉岸はニッコリと笑う。そんな部下に俺は不機嫌に口を歪ませて睨む。
「余計なことばっかり言っていると、響さんを見つけられないぞ」
「ご心配なく。彼がちゃんと見つけてくれます」
自信たっぷりに言う彼女の横顔は、彼を信用している感じだ。
「……三波」
俺は返却された、手の中のピンクパールのネックレスを再び見つめた。
「三波さんっていろんなことを自分で抱え込むタイプですよね。最近スランプのようだったので部長に相談すればいいのに、と思ったんです」
それは俺も思っていることだった。だから昨日、自暴自棄になっているアイツを無理矢理会社から連れ出したのだ。
「俺だって時間の限り三波を見ているつもりだ」
「見ているだけじゃダメですよ、部長。彼女みたいな真面目な人には、ちゃんと言葉で伝えないと。お互いの距離が縮まらないですよ」
「え?」
倉岸の言ったことがわからず「どういうことか」と聞こうとした矢先、
「あ、いたいた」
と、彼女は響さんを見つけたらしい方を向いて軽く手を振り出した。