俺が優しいと思うなよ?
「やあ、待たせてごめん」
響さんが程なくしてやって来て、微笑みながら倉岸の頭を軽く撫でる。彼女も嬉しそうだ。
「この白いコートは僕がプレゼントしたものだね。よく似合っている、可愛いよ」
と、惜しげもなく歯の浮くような甘いセリフを、俺が見の前にいるにも関わらずつらつらと倉岸に囁く。倉岸もまんざらでもなく顔を赤くして「ありがとう」などと呟いて、あっという間に二人の世界を作り出す。
二人の関係は社内でも不思議と知られていないのだが、響さんが数ヶ月にわたり彼女を口説き続けたことはまるで恋愛ドラマのような内容で知る人ぞ知る有名な話だ。
お互いを認め合う、仲の良い二人を見つめる。彼らはこの後倉岸が予約したフレンチの店に行くらしい。
俺は三波を追うべく「じゃあ、俺はここで」とホテルの外へ踵を返そうとする。
「部長」
響さんに腰を抱かれた倉岸が呼び止めた。
「部長、もう気づいてますよね?仕事だけでなくプライベートでも三波さんを手放せなくなっていることに。これ以上、私たち部下を心配させないでくださいよ」
少々お節介な彼女の助言に、俺は小さく手をあげた。