俺が優しいと思うなよ?
「君の建築デザインは独特の個性も生かされた文句のつけようのない素晴らしさがあるが、どこか一つ君らしくない誰かのセンスを真似たデザインが入ってるね」
大学の教授も、一緒に勉強をしてきたクラスメイトも、そして晴れて入社を果たした響建築デザイン設計事務所の先輩たちも気付かなかった、俺だけの密かであり絶対の拘り。
初めてそれを見破ったのが、社長である響恭介さんだった。
彼は言う。
「その独創さがお客様の希望と一致できるなら、それは君だけの強みになりセールスポイントとなる」
俺のデザインはスタイリッシュでモダンなものが多い。その中に、どこか素朴で北欧風なのもを一つだけ取り入れている。内装のちょっとした部分だったり、外構部分のワンポイント的なものだったり。なるべく基準となるデザインから浮かないように自然な感じに組み込んでいるが、元々はどこかで同じ仕事をしているであろう三波聖の目にいつか止まって欲しいという、米粒ほどの期待からきたものである。
いつの間にかこうでないと気が収まらない拘りと化してしまった。
響さんの会社で働き始めた俺は猪突猛進の如く、早く一人前に仕事を任せてもらえるようになりたくて仕事漬けの日々を過ごした。心身ともに疲れた時は、タブレットの中で遠慮気味に笑う三波聖の顔を眺めて癒しを求めた。
──三波聖もこうやって建築の仕事をしているのだろうか。