俺が優しいと思うなよ?

神様は、本当にいるんじゃないかと思った。

ある日、老朽化のため新たに建設される市営図書館の建築デザインコンペが行われた。見事に採用されたのは、ヴェール橘建築事務所のプレゼンだった。市営図書館の工事全般は親父の会社である大政建設が請け負うことで、ヴェール橘は大政建設にデザイン等を提供する形となる。
そして工事日程が明らかになったところで新設市営図書館の構成デザインが発表された。デザインはコンペの時から大政建設との打ち合わせにより多少変更した部分もあるそうだが、それは俺の気にすることではなかった。

要は建築デザインだ。

我社からコンペに参加した担当者は決定したデザインを知っていたが、初めて見た俺は一瞬で全身がびくりと震えた。
デザインを広げて見せる担当者が感心したように言う。
「な、スゴいだろ?図書館の中にジャングルみたいなオアシスなんて発想、俺にはなかったわ」

フロアのど真ん中に大きな一枚岩の岩清水、回りに人口の溜池にメダカを泳がせ、水草を浮かばせる。観葉植物でオアシスを作り上げる。天井はサンルーフで開閉式の屋根も設置されているので、天気のいい日は天井から日光を取り入れて建物内を明るくできる。オアシスを囲うように木製のフェンス付きベンチを設置することで小さな子供の安全も確保出来ている。
本棚も日光で本が痛みにくいようにしっかりと計算して設置されているところも完璧だ。本棚もデーブルも椅子も全て木製、柔らかな空間を作り出している。

──これは、間違いない。

俺の握りしめる手の震えが止まらない。
< 133 / 180 >

この作品をシェア

pagetop