俺が優しいと思うなよ?


今どきのセキュリティとは縁のない、古いアパートの前でタクシーを降りる。
二階の三波の部屋は灯りもなく真っ暗だ。玄関のドアを数回叩いて「三波、いるか?」と声をかけてみたが、ドアは施錠され人の気配も感じなかった。

「あいつ、どこに行ったんだ」
苛立ちに漏れる文句。三波の行きそうな場所も思いつかない。あいつのプライベートなど知らないのだから当然か。
三波を追いかける術もなく、待たせたタクシーに再び乗るしかなかった。



そして、翌日。
倉岸が出社して間もなく、彼女のデスクの内線が鳴る。通話を終えた彼女が俺の所へやってきた。
「部長。受付からだったんですが、三波さんから「三日ほどお休みしますので成海部長へお伝えしてください」と連絡があったそうです」
「三波が……?」
俺はスマホを取り出して着信がないか確かめ、三波へ電話をする。しかし電源を落としているのか繋がらない。

倉岸がコーヒーをデスクに置く。
「部長、三波さんと会えなかったんですか?」
「……ああ。あいつのアパートまで行ってみたが、帰っていないようだった」
「三波さんの行きそうなところはご存知ないんですか?例えば……実家、とか」
「実家?」
倉岸に言われて、そういえばと思い出す。
「確か、昨日のパーティーに三波の妹が来ていたな。あいつに紹介された気がする」
「気がするって……覚えてないんですか」
と、苦笑する倉岸。
再度、三波のスマホに電話してみるが「電源が入っていないため……」と言う音声に、俺も息を吐いた。
「別に三波の妹ってだけで興味がないからな。一度三波と離れてようやく見つけたときだったんだ。だが、正直三波の妹だと思ったくらいで顔もはっきり覚えていない」
と、スマホに視線を向けたまま諦め顔でコーヒーを口にする。

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