俺が優しいと思うなよ?


教会のデザインが浮かばないと悩んでいた三波が一体どこで何をしているのか分からないまま、三日目の朝が来た。
これまで仕事の空いた時間や夜に三波に連絡をしてみるが、彼女のスマホから当たり前のように聞き飽きた音声が流れる度に「はぁ」とため息が漏れる。
予定では明日から出社の予定だ。

──あいつが出社したら、まずお説教だな。

頭の中でそう思っていても、今は落胆している自分が隠せない。
あいつは仕事のことも詩織のことも、結局自分でこうなんだと決めつけて俺に何も聞いてこなかった。三波は俺を信じていなかったのか、と思ってしまう。
とにかく、欠勤した理由を細かく聴取しなければ。

「ぷっ」
誰かの吹き出す声に振り向く。すると町田が図面片手に俺のパソコンの画面を見て笑っていた。
「なんだよ」
少し不機嫌に聞いてみれば、彼は慌てて手で口を塞ぎ「だって」と笑いを我慢しながら指をさす。
「……」
俺はそれを見て目を丸くした。見積書を作成していた品番の記入の欄に「SEXXXXXXX……」と、「X」が数十個打ち込まれている。
「あ」
と慌てた消す俺に、町田は「あははっ」と声を出して笑いだした。
「部長。明日三波が出社しても、いきなり襲っちゃダメっすよ?」
「んなことするかっ」
動揺する俺に、町田はまだクスクス笑いながら図面を置いて戻っていく。

誓って、俺は欲求不満ではない……はずだ。
その日は気持ちを切り替えて仕事に集中した。

明日になれば、三波はあのデスクで仕事を始めるのだ。

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