俺が優しいと思うなよ?


遊歩道から十分な幅のある石畳の坂が左右に大きな半円を描いて上へと伸びていく。石畳で出来上がった円の花壇に色彩豊かな花とグリーンで周りの芝生を鮮やかにしてくれる。敷地は桜の木で囲まれ、四季を告げる手伝いを任せられそうだ。

そして。
俺たちメンバーが一番に注目した、メインの教会に誰もがゴクリと息を飲んだ。

「……白いっすね」
「……真っ白ね」
多分、メンバー全員が一致する感想だ。
テラスも柱も、扉も窓枠も、壁も屋根も。
ついでに言えば雨樋も。
何もかも外観の全てが白で統一されている教会。特徴的なところと言えば、教会ではちょっと珍しい広いテラスがあるところと、床から天井くらいまである大きな細いステンドグラスが窓の代わりに作られていることだ。屋根の上に鐘楼が設けられたこの教会は、L字型の建物というのは配置図でわかる。

「これは……いや、この案は俺は思いつかなかったっスね」
「確かに教会とお題を出されたら、それだけのことを考えるからね」
「でもこういう教会で結婚式あげるって、ステキじゃない?憧れるわぁ」
広がる図面やパースで意見を言うメンバーの中で、俺もその図面を見つめていた。

──俺も、これは思いつかなかった。

もしコンペでこの教会が採用となれば、申請や色々な面で面倒な手配が増えることは間違いない。

「だが、面白い」
ぶるっと武者震いが起きた。

やはり三波聖は三年のブランクなんかひょいと飛び越え、俺の見ていないところで俺の斜め上の発想を走っていく。
仁科係長が俺の肩をぽんと叩いてクスッと笑う。
「三波さんに頑張ったご褒美をあげなきゃね」
「それはコンペに勝ってからですよ。次は俺が頑張る番ですから」
と、頷いた。
三波がプレゼン資料をここまで完成させた。ここからの仕上げは俺の役目だ。
「よし。教会は三波のデザインでいこう。あとは俺の方で資料を引き継ぐ。みんな、よろしく頼む」
「はいっ」
三波の教会のデザインに、メンバーの士気も上がったようだ。
俺は書き残した三波のメモの丸い文字を見つめる。

──今だけ、寝かせておいてやるか。

教会の細部にまで書き込まれた、一つの妥協もない三波の図面の確認を始める。
明日、三波に会うことが素直に楽しみだと思った。
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