俺が優しいと思うなよ?


三波の手掛けた図面と仕様書のチェックをしていく。図面に書き込まれた注意書きなども一つずつ見ていき、自分の覚え書きも書き込んでいく。
外構の材料も建物外部も内装も、どんな構造でどんな材料を使うのか、それだけで俺は三波の積み上げた世界へどんどん入り込んで行った。

夜になって、仁科係長が「帰りますよ」と声をかけられるまで、俺は時間も忘れて仕事に没頭していた。
気づいた時には、時計は夜の十一時を過ぎていた。俺は三波のデザインや図面に不思議とワクワクした気持ちで仕事が順調に進んでいた。細かく調べれば確かにやる仕事も増えて、いつも以上に忙しくなることは目に見えている。しかしこの教会が完成したら、そう思うと半端ない達成感が得られると思ったのだ。まさに寝る間も惜しい、という状態だ。



そして翌日。
朝早くから事務所の自分のデスクで、再び教会の資料作りに取り掛かる。
「三波、早く来い」
自分で気づかず何度もそう呟く俺を見た町田が、「ゔっ」と声を上げて気味悪そうに怯えていることなど気にもしないで。

午前九時。
そして、午前十時。

「……」
三波が、来ない。
仁科係長と町田は出社しない三波を気にしながら外出し、桜井と倉岸と俺は一日事務所にいたがあいつからの連絡はなかった。

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