俺が優しいと思うなよ?
何を考えているのかわからない、成海さんは淡々として口を開く。
「三波聖は本日付で退職致します。今後は俺の仕事のサポートをしてもらいます。しっかり可愛がりますのでご心配なく。今までお世話になりました」
と、私の手を引いてくるりと踵を返すとドアへと歩き出す。
「ちょっと、成海さん!」
私は慌てて彼の腕を引っ張る。
そりゃそうだ。勝手に自分の進退を決められて黙っているわけにはいかない。
「どうしてあなたが退職願を出すんですかっ!私はまだっ…」
「まだ現実から逃げたまま、この仕事を続ける気か」
成海さんの鋭い視線が突き刺さる。
でも負けるわけにはいかない。
「キヨスクの販売員だって、ちゃんとした仕事です!」
「だが、これはお前の天職じゃない」
「慣れればどんな仕事だって天職になります!」
みんなの目が集まる中、成海さんと私の押し問答が続いた。
「お前の天職は建築デザイナーだ」
「そんなことは…」
「その才能を誰よりも知っていたのは、ヴェール橘ではない」
「え?」
彼が何を言ってるのかわからず、私は言い返せない。
獣はもう一度言う。
「お前の才能を誰よりも知っているのはヴェール橘じゃない。この俺だ」