俺が優しいと思うなよ?

小雨だったせいか、髪も服もしっとりと濡れた程度だ。
成海さんは駐車の支払いを済ませるとすぐに車に乗り込んできた。
「寒くないか」
と、気遣うような言葉と共に、車のエンジンをかけた。
まだ視界が揺れている私は、隣の獣の横顔を見る。
「私、は」
やっと出た声は、伸びてきた彼の手によって遮られてしまう。右頬に触れる大きな手はとてもあたたかかった。
「話なら、後で聞いてやる。頭をシートにつけろ」
低い声は不思議と耳心地がよく、頬にあった手は私の両目へと移動して、瞼を閉じるようにゆっくりと下へと降りていった。


寝ている場合じゃないのに。
ここに焦っている自分がいるのに。

獣の手の気持ち良さに負けてしまった。

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