俺が優しいと思うなよ?


『この前だって、お前のデザインを売り込んでやっただろ?この調子で俺の言うとおりに図面を描いていけばいいんだよ』

『俺たちは対等なんだ。一緒に気持ち良くなろうぜ…』


「……いやっ!!」
ハッと気がついて目が覚める。
目の前に成海さんの不機嫌そうな顔が、私を覗き込んでいた。
「おい。大丈夫か?酷くうなされていたぞ」
と言って、ベットに座っていた腰を上げた。
車から降りてから、成海さんに抱えられてここまで来たことは朧気に覚えている。その後ベッドに寝かされたのだろう。
自分がうなされていたことはわからない。しかし脳内のモヤモヤとした感じはあったが、体がフラフラすることはなかった。

ベッドは隣にもう一つあり、使われた形跡はない。サイドテーブルの灯りでほんのりと明るく、少し離れた窓際のテーブルは天井からのダウンライトで明るく照らされていた。テーブルにはノートパソコンや書類が置かれているのを見ると、仕事をしていたようだった。
成海さんが私を支えながらフロントで鍵を受け取るのをうっすらと見ていたので、ここがホテルの一室だとわかっている。

「コーヒーは飲めるか」
成海さんは両手にカップを持ってきた。
「はい。ありがとうございます」
と言って、私はカップを受け取った。コーヒーのいい香りがした。

「お前の家は知らないから、俺がよく使うホテルに連れてきた。体調が悪そうだっから俺の家でも良かったけど…お前は多分嫌がると思ったから」
そう言いながらベッドの端に座った彼はコーヒーを啜る。
確かに、まだよく知りもしない人のお宅に上がるのは、さすがに体調不良でも遠慮したいところだ。

「そうですね…ご迷惑をおかけして、気遣い頂き申し訳ありません」
私はぺこりと頭を下げ、カップのコーヒーを眺めた。

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