俺が優しいと思うなよ?


「仁科係長は美人な奥さんと可愛い娘さんを持つパパっスよ。もしかして、三波さんは仁科係長を狙ってたんスか?」
「狙ってませんっ!」
町田さんのツッコミを間髪入れずに言い返す。
仁科係長が既婚者だとは思わなかったけど…という言葉は飲み込んだ。
すると、町田さんに書類を渡しに来た倉岸さんがクスクスと笑った。
「仁科係長って見た目が若くてイケメンだから、既婚者と知らない女性たちから声をかけられることがあるんですよね?奥様の心配する顔が目に浮かびます」
「僕はイケメンでも若くもないよ。もう三十二歳だしね、立派なオジサンだよ」
仁科係長は美顔を苦笑させてサラリと受け答えた。

──三十二歳は立派なオジサン……。同じ歳の私は立派なオバサンということか。

なんだかガックリと虚しい脱力感を覚えた。


「みんな終業時刻は過ぎているだろ?仕事が終わっているなら帰れよ」
社長室から戻ってきた成海さんに言われて、町田さんたちが帰り支度を始める。
私は終業時刻までの間、インターネットで参考になりそうな教会を検索した。

「三波さん、思い詰めないように頑張って」
と、仁科係長から帰り際に笑顔で励まされ、私は上手く笑えない笑顔で「お疲れ様でした」と返した。
仁科係長から大切なヒントをもらったかもしれない。しかし普通なら年齢的に考えなければいけないことが、生きていくことに必死だった私には欠けていたことだった。

──私はどんな結婚式をしたいんだろう。

もちろん、幸せになることは大前提だ。大切な人と結婚式をするのだ。当然ステキなチャペルを思い浮かぶんだろうが……。
「……」
私は頭を抱えた。

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