俺が優しいと思うなよ?

「プレゼン、ボツ……?」
あの有名な建築家でもプレゼンに落ちることがあるのか。少し驚きながらも、そのファイルを手に取った。
ファイルに挟まれたスケッチパースを見つける。

「……これが、チャペル?」
そこには今まで見たことのないチャペルのデザインが描かれていた。
両開きのアーチ型の白いドア、ガラスとステンドグラスが交互にはめ込まれた窓が壁一面に並ぶ。そして赤い屋根。天井から床までの縦長の窓を並べたことで室内に陽の光で明るく開放的な空間が出来上がる。
外見は一見カフェ風な佇まいのようで、玄関の上に大きくてシンプルな白い十字架と、天使の描かれたステンドグラスが教会としての厳かさを強調しているように見えた。

とにかく、誰にでも真似できるようなデザインではない。
「ステキ……」
ホッとため息をこぼして、そのスケッチパースに触れた。


「どんなデザインでも、ボツになればただの落書きだ」

前から聞こえた声に、私は顔を上げた。
成海さんが冷めた瞳で私を見下ろしている。
「成海さん?」
突然現れた彼に少しだけ驚いていると、彼は私の手にあるファイルをひょいと取り上げ、チラリとスケッチパースに視線を移して整った顔を歪めた。
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