俺が優しいと思うなよ?

「自分の納得したものが出来ても、採用されなければ成功とは言えない」
「それはクライアントだって大金を払ってチャペルを建てるんです。元々どんな条件があったのか知りませんが、私個人としては斬新でステキだと思いました」
と、私は何度も頷きながら感じたままを伝える。

成海さんは「はぁ」と大きなため息の後口を曲げた。
「…タカナシ・フラワーリゾートを知っているか?その社長が娘の結婚式に相応しいチャペルをデザインして欲しい、というのが条件だった」
タカナシ・フラワーリゾートといえば、何千種類という季節の草花を扱って広大なフラワーガーデンを造作し人々の目を楽しませ、若者が楽しめるアトラクションを揃えた遊園地も併設している。そしてコテージ式の宿泊施設がありバーベキューなどのアウトドア料理も堪能できるリゾートパークが全国に数件あると聞いたことがある。

しかし娘のためとはいえ、その社長さんも思い切った事業に踏み切ったものだと思う。これがセレブの感覚というものだろうか。

成海さんはその時のことを思い出しているのか、額に手を当てて目を細める。
「まあ……結局、結婚が白紙になったことでチャペルの話もなくなったけどな」
「あ……そうだったんですね」
それで「ボツ」なのか。
成海さんのことだから、きっと当時は先方と綿密な打ち合わせをしてチャペルを形にしていったに違いない。彼の苦労が水の泡になった気持ちが何だか分かるだけに同情してしまう。

「これは俺も満足したデザインだったから、会社の利益と良い宣伝になればいいと思ったんだが、残念だった」
低音ボイスの言葉がポツリと聞こえた。
< 46 / 180 >

この作品をシェア

pagetop