俺が優しいと思うなよ?

ここで疑問に思ったのは、何故担当者の名前しか残っていない物件を、成海さんは私のデザインだと知っていたのだろう。
ヴェール橘で私のデザインした建築物は全て上司もしくは担当者の名前になっている。
「成海さん」
と質問しようとしたが、彼の声が勝ってしまった。

「この図書館がお前が作ったと聞いた時は「なるほどな」と納得した。さすがにあの営業のオヤジたちがこんな繊細なものを考えたとは思えないもんな。俺はこの感性に惚れたんだ。だから今回のプレゼンにお前が必要だった。これで納得したか?」

成海さんの切れ長の瞳はイタズラに漠然と答えていないと感じた。自惚れかもしれないが「本気」を感じたのも、また事実だ。


あの時とは違う。
そう信じたかった。


「成海さん。お願いがあります」
私は、その彼の目に向かって口を開いた。

時間は私たちの就業時刻をとっくに過ぎていた。

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