俺が優しいと思うなよ?
ぱこんっ!
何かで頭を軽く叩かれた。ハッと気づいて横を見れば、丸めた図面を手にしている獣が口をへの字にして私を睨んでいた。
「ボーッとするのは車から降りてからにしてくれ。とっくに着いてるぞ」
と、不機嫌な声が飛んできた。
今日は敷地の外構の勾配の確認だ。数日前から成海さんと打ち合わせの度に決めかねていることがあった。
遊歩道から教会の敷地への入口から建物のアプローチが三十メートルほどある。緩やかな階段とスロープを作りたいと思ったが、
「スロープだけを作りたい」
という成海さんと意見が合わず、再度確認に来たのだ。
私はまだ、この地に建つ教会のイメージがてきていない。本当は階段が、スロープがなどと言っている場合ではないのだ。メインの教会が決まらないと話にならない。
教会の敷地から遊歩道の向こうに広がる公園となる更地を眺めば、理想とする公園がいくらでも浮かんでくるのに。
『どんな教会で結婚式をしたい?』
仁科係長の言葉が、私を焦らせる。
そして、今日も残業だ。
ミーティングルームで成海さんと膝を突き合わせることは、もう当たり前のようになっている。
「……」
真っ白なスケッチブックを見つめる私。
腕を組んで背もたれに体を預けて座る彼から、刺すような視線をチクチク感じる。獣の如く吠えるとまではいかないが、多分私のことを呆れていることは間違いない。
ここ数日、毎日のように一緒に現場に行き、彼とあれこれ打ち合わせをしてきたが、彼から一番期待を寄せている教会のデザインがまだなのだ。今まで成海さんは何も言わずに私を信じて待っていたというのに、このために招かれ入社した私は全くの役立たずというわけだ。