俺が優しいと思うなよ?

膝の上に置いた両手の指先が冷たく感じる。

「…自分の思い描きたいという教会は、浮かんでこなかったか…」

呼吸をすることも苦しくなる重い空気の中で、獣の唸るような低い声で呟く。その細く鋭い視線は今にも睨みつけている白い紙をカチンッと凍らせるほどの氷点下の冷たさだ。

──やっぱり、私には無理だったんだ。

入社する時に「ぶつかっていこう」と決めた言葉が、ぶつかる前に尽く粉砕した気分だ。

成海さんは疲れたように両目の目頭を押す。
彼が会議から開放されたのは、今から約三十分前。事務所に戻ってきたかと思えば資料を放り投げるようにデスクに置き、どっかりとその体を椅子に深く沈めた。そして「はぁ」と目を閉じて大きなため息を一つ吐き、直ぐに目を開いてに体を起こしてデスクに向かい私を呼ぶ。

そんな彼を近くで見ているが、自分で癒してあげることが出来たらと思う反面、私が教会のデザインを完成させることを優先すべきじゃないかと思ってしまう。

どちらにしても、彼を不利な位置に立たせていることに変わりはない。

お互い無言な時間が過ぎていく。そして成海さんは静かに口を開いた。
「三波」
「…はい」
「もしかして、現場に俺がいたのが邪魔だったか?俺がいたから集中できなかっ……」
「ちっ、違います!成海さんのせいじゃありませんっ!」
私は思わず大声を上げて立ち上がった。椅子がガタンと音を立てる。
彼にとんでもない勘違いをさせてしまった。私はそうじゃないのだと、首を横に振った。
「わっ、私がいけないんです。このプレゼンのために、私を見込んで会社に誘っていただいたのに……それなのに、私が全然ダメで……」
と、成海さんを見ることもできず猛省に浸っていく。
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