俺が優しいと思うなよ?

「三波……」
成海さんは声を張り上げた私に目を開いて少し驚いているようだった。対して私は切羽詰まった崖っぷち状態で頭の中もパニックだ。
「私、仁科係長からアドバイスをもらっていたのに何も思いつかなかったんです。「どんな教会で結婚式をしたいか」なんて……今まで考えたことがなかったんです」
成海さん相手に何を言ってるのか、とんだ八つ当たりだとわかっているのに自分が止められない。
「私だって、こんな私だって結婚願望はあったんです。ちゃんと自分を見てくれる人に出会えたら……なんて思ったこともありました。もう三十を過ぎたのでそんな気持ちも薄れましたけど」
と、ここまで喋っておいて余計な事だったと慌てて手で口を押さえる。
そんな私の様子をじっと見ている成海さんに、「とにかく」と続けた。

「とにかく、私と一緒にいてわかりましたよね?今回のプレゼンは私は役に立たなかったんです。今からでも有能なデザイナーを迎えても間に合うはずです。私の方は必要であれば「今度こそ」自分で辞表を書きますので」


居た堪れない気持ちになって、私はミーティングルームを飛び出した。事務所には町田さんも桜井さんも仕事をしていたが、私は構わず自分のデスクの鞄を引っ掴んで足早に事務所を出た。

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