俺が優しいと思うなよ?

「何を言ってるんですか。そんなこと、出来るわけないでしょ」
拒否をした私に、西脇の片眉がピクリと動く。
「へえ。なに、いつから協力できないなんて言えるようになったの?」
「……私はもう、あなたの部下じゃありません。協力は、しません」
震える両腕でギュッとトートバッグを胸に抱いて握りしめる。目の前の顔を見ると、思い出したくない過去が溢れて怖くて仕方がない。
じとりと睨む西脇の顔が、今度はニヤリと歪んだ。
「そうか。じゃあ仕方ねぇな。響がエントリーを辞退するように仕向けるか、お前が響にいられないように、お前の淫乱な過去を誑し込むか」
「そんなっ!」
自分が望まなかった過去の事実で私を脅そうとする彼を睨む。

ヴェール橘で西脇の卑劣なやり方を近くで見てきた。邪魔な存在はとことん潰し、飴と鞭を使い分けて自分の手足を増やしていく。そして人の粗探しをしてはタイミングよく脅していくのだ。私も彼によって体も心もボロボロにされた一人だった。
そんな西脇のために、私に関わったことで会社がどんな被害に遭うか、考えるだけで恐ろしい。

プレゼンの教会については成海さんと私の担当だ。進行状況なら自分が一番よく知っている。西脇の欲しがる情報など一つも持ち合わせていないのに。
しかし、それを伝えたことろで彼が納得するはずがなく、逆に得意の二枚舌で響建築デザイン設計事務所のマイナスとなるものを世間に拡散させてしまうかもしれない。それだけは避けなければ。

もう、この男の言いなりになりたくないのに。

そう思った時だった。

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