俺が優しいと思うなよ?
ビーフシチューは自然と唸り声が出てしまうくらい美味しかった。口の中でお肉がホロホロと溶けていく食感は初めて味わったかもしれない。気づけば、ただ夢中で食べていた。
しっかりとランチを完食して満足した私は、食後のコーヒーは昔ながらの角砂糖を一粒落としてスプーンでゆっくりとかき混ぜる。ふっと視線を感じて見上げると、成海さんが私を見て口角を上げていた。
「幸せそうに料理をペロリと食えば、シェフも大喜びだろう」
「ちょっ……私が大食いみたいな言い方しないでください」
と言ってはみたが、顔がぼっと熱くなるのを感じる。
「ほっ、本当に美味しかったんだから、幸せでもいいじゃないですか。こんなステキな料理を残すなんて、有り得ません」
私が付け足してみると、成海さんの顔がニヤッと笑う。
「……だってさ。工藤、よかったな」
と、その視線は私の後方を捉えて話した。
「え?」
と私も振り向けば、白いコックコートを着た若い男性が立っていて、ペコッと頭を下げた。
「本日はお越しいただき、ありがとうございます。五代目店長の工藤です。料理の完食は料理人にとって何より嬉しい褒め言葉です。ね、先輩?」
少しクセのある茶色の髪、人当たりの良さそうな優しい顔の彼はニッコリと微笑んだ。