俺が優しいと思うなよ?
ポツポツと雨が降り始め、成海さんが私を車に押し込んだ時には雨粒も大きくなっていた。
「少し濡れたな。寒くないか?」
と、彼は車内のエアコンを強める。私は彼から目を逸らして「大丈夫です」と答えた。
事務所へ戻る車の中はいつもの無言で、フロントガラスに当たる雨音だけが響く。
ハンドルを握る成海さんが沈黙を破った。
「何か、聞きたいことがありそうだな」
「……別に、何もないです」
「じゃあ、その不機嫌な顔はやめろよ」
「すみません。これは自顔です」
「……そんなブサイクな自顔なわけねぇだろ」
もうっ。
珍しく突っかかってくる成海さんにムカッとした。
「悪かったですね。あの美人な方の顔を見れば、私の顔は余計にブサイクに見えるんですよ。よくあるじゃないですか、自分の作ったオムライスが上手くできたと思っても、他の人の作ったオムライスがとっても素晴らしくて自分の作ったオムライスが貧相に見えるって、アレですよ。成海さんの視覚は至って正常だと思うので心配はないです」
そこまで言い終えた途端、車は路肩に寄せて止まった。