俺が優しいと思うなよ?

「今日はいつになく口達者だな、三波?」
その声に怒気が含んでいることは、彼の顔を見なくてもわかる。それが見れないのは、「自分もちょっと言い過ぎてしまった」と言い終えてしまってから反省しているからだ。
隣から「カチャ」という音が聞こえたと思えば、窓側を向いていた私の顔は顎を掴まれて、グイッと半ば強引に反対に向かされた。運転席から体を半分乗り上げた状態の成海さんと顔が、お互いの鼻先が触れるくらい近い。

──ちちち、近いっ。

反射的に離れようと体に力を入れるが、左肩にある成海さん手がそれを許してくれない。
「三波。俺、最初に言ったよな?」
「な……何を、ですか」
「お前が入社すれば、俺はお前と組んで仕事をすることになるって」
「た……確かに、そんなことを仰ったように思いますが」
それが一体なんの関係があるのだ。このところ出勤すれば成海さんと一緒にいることが当たり前になっているから、仕事をサボる暇なんて無いに等しい。休憩だって彼と一緒にコーヒーを飲んでいるくらいだ。
……無言だけど。

「三波」
ギロリと睨んでくる顔が、美しい故にとても恐ろしく感じる。
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