俺が優しいと思うなよ?
建築デザインの仕事をしていて、成海柊吾を知らない人はいないだろう。コンペにエントリーすれば、勝利を手にした物件は数知れず。依頼主の心をしっかりと掴む建築設計を生み出す、個性派建築士として有名な人物だ。
私は成海柊吾の名前を知っていても、こうやって顔を合わすのは初めてだ。
そんな彼が有名人か否かでも、
「頼む。君の建築デザイナーのとしての才能を俺に預けてくれないか。俺はその才能がどうしても欲しい」
と路上で言われたら誰だって動揺するだろう。
しかし、こればかりは引き受けられない。
「あの、大変申し訳ありませんが…先程の話は」
「ああ、話は後にしませんか?ちょうどピザが来たので熱いうちに食べましょう」
と、響さんが手を軽く横に振って私の声に重ねた。
食事をする気はなかったが、響さんが私のお皿にあれもこれもと料理を乗せていくので、言うことだけ言って帰ることが出来なくなってしまった。
美味しそうに食事を始める二人を前に、私は仕方なくフォークを手にした。