俺が優しいと思うなよ?
翌日、いつもの時間に出社すると、他部署の女性たちの様子がおかしいことに気づいた。首を傾げながら「おはようございます」と挨拶をして席に着く。
成海さんのチームは毎朝のルーティンのように自分たちの業務に専念している。私もしようとパソコンを立ち上げた。そしてすぐに業務メールが届く。
倉岸さんだった。
「遅くなってすみません」
私は倉岸さんに呼び出された給湯室の扉を開けた。彼女はトレイにメンバーたちのカップを並べているところだった。
「おはようございます。朝からごめんね?」
と、完璧にメイクされた美女はニッコリと微笑んだ。
「え……成海さんが、女性とですか?」
倉岸さんの話に、私も小声で聞き返した。
『結婚の約束をした……』
昨日の成海さんの話からすれば、相手は婚約者の詩織さんだろうか。
「昨夜、社員の女の子が綺麗な女性と仲良く歩いている成海部長を見たんですって。その子、まさしく今日、部長に告白するって決めてたみたいで、ショックを受けて出社できなくてお休みしているらしいわよ」
彼女がお休みすると聞いた同僚が心配して連絡すると、「成海部長に告白する前にフラれた」と泣いて話したらしい。
その話が広まって「成海部長の恋人説」が浮上、彼に恋する女性たちは一同に失恋を味わってしまったということだ。
「そういうことだったんですか……」
「朝から他部署の女の子たちが入れ代わり立ち代わりやって来て「成海部長の恋人は誰なのか」なんて聞いてくるものだから、私も仕事が進まなくて正直困ってるのよ」
と、倉岸さんは苦笑した。
昨日の夕方から鳴り続いた成海さんのスマホ。その後、綺麗な女性と会っていたというなら詩織さんの可能性があるだろう。
倉岸さんはカップにコーヒーを淹れ、両手でトレイを持ち上げた。
「私はその女性は部長の恋人じゃないと思うの。だって……」
と、続きを言いかけ、持ち前の可愛さでクスッと笑うと給湯室を後にした。