俺が優しいと思うなよ?
夕方、本人のいない成海さんのデスクの電話が鳴り出した。内線だ。成海さんは社長室から戻った後、担当する新築物件の立ち会いのため外出している。
「はい、倉岸です。お疲れ様です、成海部長は外出していますが」
倉岸さんが代わって応対した。すると、彼女の大きな瞳が私を捉える。
「わかりました。三波さんに伝えます」
と言って、受話器を戻す。
──成海さんの用件なんて、私じゃわからないんだけど……。
自分の名前を発した倉岸さんを、私は眉をひそめて見つめる。彼女も同じように眉をひそめて私に顔を向けた。
「成海部長に二条様というお客様が受付にお見えだそうです。対応お願いします」
「え、成海さんのお客様なんて一人もわからないのに、対応なんて……」
さすがにギョッとして両手を振って「無理です」と断る。
「でも仁科係長も町田さんもまだ戻ってないんだから仕方ないのよ。成海部長へ用件を伝えます、と話を聞いていただく程度で大丈夫だと思うから」
改めて、私は倉岸さんの笑顔に弱いと認めてしまった。