俺が優しいと思うなよ?

手帳とペンを手に、エレベーターで十五階まで降りる。
倉岸さんの話では、二条様という方は成海さんに家のリフォームを依頼しているらしい。とにかくお客様の話をひと通り聞いて後ほど成海さんから連絡するようにしよう、と頭の中で模索した。

……が。

十五階の受付横のパーテーションの端から中へ一歩踏み出す。
キャメル色のソファに悠然と腰掛ける人を見て、驚くと同時に心臓がドクンッと痛く鳴った。
ソファとテーブルの応接セットは受付からも、そしてエレベーターホールからもパーテーションがあるため人の姿が見えないように工夫がされている。

「お待たせしました」
と、私の声は震えた。
相手も私を見て「あっ」と声を上げた。私を見上げたその顔は記憶に新しい。

二条様は、詩織さんだった。


「昨日は失礼いたしました」
と挨拶をして、彼女の向かいの一人掛けソファに座る。
「生憎、成海が外出していますので、代わりに私の方で承ります。成海が戻りましたら伝えます」
と、手帳とペンを取り出すと、詩織さんも私をじっと見て頷いた。
詩織さんは落ち着いた表情で、ライトブラウンのワンピースのフレンチ袖から伸びた腕は白く、手は膝の上に上品に乗せていた。彼女の頭が少し動くと、ナチュラルボブの髪がふわりと揺れた。
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