俺が優しいと思うなよ?
「は?二条詩織が来たって?ここへ?」
事務所に帰ってきた成海さんにいち早く報告をする。彼は眉をクッと寄せてあからさまに迷惑そうな顔をした。
──婚約者が来たことが、そんなに嫌なことなんだろうか。
人の気持ちもそれぞれなのだろうが、と思いながら「先日リフォームの話をしましたよね?」と聞いてみた。
成海さんはハンガーにコートを掛けると、疲れているのか椅子にどっかりと座った。私は間を置かずに詩織さんとの会話を聞かせると、彼は額に血管を浮かせて整った顔を更に歪ませた。
「アイツには、うちのリフォーム部門から連絡させると言ったおいたが」
「いろいろ込み入った話もしたいので、お食事をしながら……と仰っていました」
そう伝えれば、彼の薄めの口がへの字に曲がった。
私は詩織さんのメモを成海さんのデスクに置く。
「二条様から一度ご連絡頂きたいということです。お願いします」
と言って自分のデスクに戻った。
成海さんは憂鬱そうな顔をしていたが、その後にデスクに置かれた倉岸さんのコーヒーで気を取り直したのか、仕事を始めた。
「……」
パソコンで教会の画像をマウスでポチポチとクリックしていく。しかしどんなに素敵な教会を見ても、胸焼けでもしているような悶々とした感情が自分の中に渦巻いていく。
──ダメだ。こんな気持ちでは、何もアイデアが浮かばない。
成海チームのみんなが帰り、成海さんが席を外した隙を見て私も事務所を出て帰ることにした。
今日は帰ってビールで喉を潤して早く寝るに限る。
バス停で生憎次のバスの時刻が少し空いてしまったので、駅まで歩いてバスに乗ろうとした。
駅のバス停にたどり着いた時、
「三波さん」
と後ろから呼ぶ声がした。