俺が優しいと思うなよ?
成海さんは真木さんのことを忘れてしまったのだろうか。
「成海さんがキヨスクの事務所で退職願の騒ぎを起こした時に現れた彼女を覚えていませんか?」
「?」
彼はわからないようで、「さあ」と答える。
「成海さんが私の退職願を出して揉めていた時に割って入ってきた女性なんですけど」
「あの時は、とにかくお前にあの仕事を辞めさせることに必死だったからな。悪いが覚えていないな」
とすっぱりと言われ、私も「そうですか」としか言えなかった。
「それで、話したいこととは」
と、私から本題を切り出してみた。それは本来なら成海さんから言い出すことろなのだが、彼が何かに言いにくそうにしていたからだ。
それに、私も「風鈴」で美味しい焼き鳥とアルコールを堪能して、今にも眠気が襲ってきそうだからだ。
眉間にシワを作っていた成海さんは、やがて口を開いた。
「折り入って、お前に頼みたいことがある」