俺が優しいと思うなよ?

成海さんの話に耳を傾けていたが、その内容がどうにも私の生活水準からかけ離れていることに、動揺する。

「え、いや、あの」

さすがに酔いも冷めてしまうくらい突拍子もない話を途中で止めようとしたが、成海さんは私に口を出す間も与えてくれなかった。
そして、
「ということで、俺は成海一族の人間として大政建設の創立記念パーティーに出席することになった」
と、瞼をピクピクさせて言った。

「いつもならこんな事は次男の俺には関係ないことだったから無視してきたが、プレゼンの手前、今回はそうも言っていられなくなった。一応お前も実績ある建築デザイナーだから、連れていけば親父も少しくらいは興味を持ってくれるかもしれない」
と、話を早口で終わらせた。

──って、いやいや、話を終わらせたどころじゃなくて、これから始まる内容でしょっ。

エアコンが効いてきて部屋が暖かくなり、加湿器で乾燥した空気も和らいできたというのに。私はすっかり唇が乾いてしまい、背中がゾクゾクしっぱなしだ。

要するに、この成海柊吾の父親は今回の都市開発の元締であるスーパーゼネコンの大政建設の社長である。自分は次男であり、跡継ぎは兄である長男で、父のことは全て任せてある。
先日実家から「大政建設創立六十周年のパーティーを行うので成海家の次男として参加するように」と連絡があった。
今まで響建築デザイン設計事務所とはいくつかの取引があったが、今回は大きなプレゼンにエントリーしているため、少しでも勝算を求めて父親の胸の内を探る必要があると考えた。

「前にも言ったが、リベンジだからな。得られる情報は全て把握しておきたい」
と、彼はすっかりパニックになっている私を見据えた。

「そのパーティーに、一緒に行って欲しい」

私はぬるくなったコーヒーをゴクゴクと飲み干した。
ヴェール橘建築事務所で、私は西脇のような表舞台で働く人のためにずっと裏方のような仕事ばかりしてきた。キヨスクの販売員だってそうだ。それが、いきなりスーパーゼネコンのパーティーに出席したところで、一体私に何が出来るのだろうか。世界を相手にしている会社だ、きっと海外からも名の知れたゲストが出席するはずだ。
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