俺が優しいと思うなよ?

私は首を横に振った。
「不慣れな私には場違いなところです。同行者が必要なら、私より響社長のほうが適任です。私が出席して、もし成海さんや周りの人に失礼があったら……」
「社長も出席する」
彼は話の途中で口を挟んだ。
「あの人はちゃんと招待状をもらって出席するんだ。お前は親父の息子である俺のゲストとして招待する」
「じゃあ、社長が行かれるなら私が行く必要が」
「ある」
またしても言葉を遮られ、私はムッとして口を尖らせた。

成海さんは真剣な面持ちで私を見る。
「俺達の社長がパーティーに参加する目的は別のところにある。俺達の今することは完璧なプレゼンに仕上げる準備のみだ。そのためにお前が必要だと、前々から言っているのだがな」
その声は少し苛立っているように聞こえた。きっと事ある毎に反発する私が気に入らないのだろう。
仕事も実績も容姿も家柄も、全てを手に入れているハイスペックな男に、プレゼンのデザインさえ思いつかない私がなぜ必要なのか、サッパリわからない。

「三波。お前は市立図書館の建築デザイナーだからとして親父に近づけばいい。会場では俺と一緒にいれば大丈夫だ」
成海さんはそう言って立ち上がった。
「でも成海さん、それで私が行くのは……あっ」
パーティーは断ろうと、私は慌てて立ち上がりテーブルの角に膝をぶつけてしまった。
「いたっ」
痛さのあまり呻いてヨロッと体のバランスを崩してしまう。
横の壁に体当たりすると思い、グッと目を閉じると、グイッと力強く腕を引っ張られた。反動で私の体が今度は反対へと傾いていく。
トンッと体がぶつかり見上げると、すぐ真上に成海さんの綺麗な顔があった。
腕はまだ彼に掴まれ、体の半身がスーツ姿の彼に寄りかかったままだ。

視線が、逸らせない。

ドクドクと暴れる心臓の音も聞かれているかもしれない。
「す……すみま」
謝って離れようとした。


頭が、背中が、成海さんの腕でぎゅっと押さえつけられた。
何が起こっているのか、途端に脳内が真っ白に染まっていく。

まるで、抱きしめられているように。

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