俺が優しいと思うなよ?
『どんな教会でお祈りをしたいのか。どんな教会で結婚式を挙げたいのか。』
「……」
どうやら私は教会に対する概念が著しく低いのかもしれない。
やはり、今はパーティーなど考えている場合ではない。自分のやることをやらなければ。
しかし自己嫌悪気味な私を、成海さんは獣のごとく私の首根っこを掴んで自分の車に乗せ、都市開発の現場へ連れていく。
「建設予定されているものが変更になった」
車の中で聞いた寝耳に水の言葉に「え?」と気の抜けた声が出た。
運転中の成海さんはハンドルを握りながら視線を前に向けて口を開く。
「市長から提案された。あの敷地内にプラネタリウムが見れる科学館が建設されることになった」
「プラネタリウムが見れる科学館、ですか?あの敷地のどこに……」
と、私はカバンの中からファイルを取り出す。
「まだ話があったばかりで大政建設が今、新たな図面を起こしていることろだ。明日か明後日には送られてくるだろう。話ではショッピングモールと公園の共同駐車場の三分の二を立体駐車場にし、三分の一が科学館になる。地上三階地下一階の建物だ。響社長が大政建設に出向いた時に」
と、彼の話が途切れて車をコインパーキングに駐車させる。
車のエンジンを止めた成海さんの顔が私へ向いた。
「市長が大政建設に言ったそうだ。「市営図書館のようなインパクトのあるデザインにして欲しい」……と」
「……っ」
心臓がドクンッと波打った。
確かに自分の手がけた仕事が少しでも評価されることは嬉しい。しかし今はもう、あの頃のようなものが描けるかわからない。
そう思っていると、
「大政建設が直接ヴェール橘に科学館のデザインをオファーしたそうだ」
「え、ヴェール橘に?」
私はトクトクと鳴る胸に手を当てて彼を見上げた。
「ああ。デカい仕事だ、金と名声が大好きなヴェール橘の女狐社長は二つ返事で引き受けたそうだ」
と、成海さんは面白くなさそうに言った。