俺が優しいと思うなよ?

昔から時代と共に高級で華々しく移り変わっていった駅の東側と違い、「駅裏」と呼ばれる駅の西側は私たち庶民の生活水準に合わせたお店が軒を連ねていた。大衆食堂も居酒屋も手頃な値段で飲み食いできた憩いの場だった。
そんな庶民の味方もとうとう時代に逆らうことが出来なくなり、新しい街へと生まれ変わることになったのは嬉しくもあり、また寂しくもあった。

頭の中でそんなことを思っていると、響さんのカップをソーサーに置く「カチャリ」という音が聞こえてきた。
彼は口角を上げて、私に視線を寄越した。
「我が響建築デザインは、今回この事業のマンションと教会のプレゼンにエントリーした。大きな仕事だ、それなりの精鋭メンバーを揃えているが君を迎えて完璧なチームとして挑みたい」
それまで穏やかだった彼の声が、糸をピンッと張ったような声に、私はゴクリと息を飲んだ。
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