エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました
私のようないち秘書の意見でもきちんと精査をし、会社にとって有益なら取り入れてくれる。そんな社長の姿勢は一般社員たちにも親近感を抱かせ、彼のために頑張ろうという気にさせる。
本当に、素敵な人。身分だけでなく、人間的な器の大きさも、私なんかとは格が違う人だ。
切ない気持ちを吐き出すようにふう、と息をついたその時、軽いノックとともに会議室のドアが開いた。
振り向くと、入ってきたのは秘書課長の紫倉さんだった。
紫倉さんは、細身のスーツにアンダーリムのオーバル型眼鏡がトレードマーク。冷静沈着を絵に描いたようなクールな風貌だ。
仕事もできる人で、大和さんが専務の頃から私が社長秘書に抜擢されるまでの間彼の秘書を務め、その頭の回転の速さから参謀と呼ばれていた。
「手が空いたので、設営を手伝おうと思ったのですが……必要なかったようですね」
室内を見渡し、紫倉さんが眼鏡の奥の涼し気な目元を緩ませる。
「お気遣いありがとうございます。ちょうど、今終わったところで」
「そうですか。では、会議まで少し休憩するといいですよ。社長室に戻ったら、どうせ大和にこき使われるだけなんですから」