エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました

 しかし、あの航紀が俺を出し抜こうとするだろうか。大学時代、紅蘭のことはあっさり俺に譲ったというのに……。

 初めは航紀が彼女を好きで、俺はキューピッドになるつもりだった。しかし三人で行動を共にするようになるうち、航紀は紅蘭が俺に好意を抱いていることを知る。すると航紀は迷わずこう言ったのだ。

『彼女の気持ちに応えてやってくれないか、大和。俺は、自分の恋が破れたとしても、好きな人には幸せになってほしいタチなんだ』
『航紀……』

 俺は迷ったが、航紀の言う通りにした。紅蘭に抱く好意は友人としてのものだったが、航紀のためにも彼女を幸せにしてやろうと決め、真剣に交際をはじめた。

 紅蘭とは、ジュエリーデザイナーを目指す同士でもあったので、色っぽい男女交際というより、互いを刺激し支え合う、仕事上のパートナーのような関係だった。

 それでも俺なりには紅蘭を大切にしていたつもりだったのだが、彼女の裏切りによって、俺たちは一年にも満たないうちに破局。

 航紀がその時どう感じていたのは知らないが、紅蘭を幸せにできなかった俺を恨んでいたのかもしれない。

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