エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました

 だから、今回は叶未を自分の手で……? ダメだ。いくら航紀でも叶未は譲れない。

 激しい嫉妬心を振り払うように首を振って、廊下の途中で一旦立ち止まる。

 考えろ。航紀が行きそうな場所はどこだ? 人気がなく、叶未に警戒されずふたりきりになれて、叶未を押し倒すのに適した……なんて、俺は妻と友人に対してなんてひどいことを想像しているのだろう。

 悪い想像を膨らませる自分をたしなめつつ、けれど思い当たる場所が一ケ所あった。

 航紀はいいヤツだが、敵に回すと怖い男でもある。アイツが俺への恨みを募らせて、自分の中の冷酷さを存分に発揮するとしたら、選ぶ場所はひとつだ。

 社長室。そこで叶未を奪えば、俺の精神に大ダメージを与えられる。

 ほぼ確信に近いものを抱きながらエレベーターで七階に移動し、社長室までの廊下を走る。そしてドアノブに手を掛ける直前、思わず深呼吸をした。

 自分の部屋だというのに、こんなに緊張しながら入らなければならないなんて……。

 ドクドクと脈打つ鼓動の音を聞きながら、手に付けていたグローブを外してガチャリとドアを開けた。

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