エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました
予想通り、ふたりはそこにいた。幸い、航紀が叶未を押し倒している最悪の図ではなかったが、ふたりは応接用のソファに向かい合って座り、なにか話していたようだ。
「迎えが来たようですね」
航紀はいつものクールな調子で言うと、立ち上がってこちらに近づいてくる。
そして何の説明もなしに俺の脇を通り過ぎようとしたので、思わず肩を掴んで引き留めた。
「待て。叶未となんの話を?」
「そんなに怖い顔をしなくても大丈夫ですよ。彼女の血を吸ったりはしていませんから」
「はぐらかすな。なんの話をしていたのかと聞いている」
航紀の肩を掴んだ手に力をこめると、航紀はやれやれといった感じに、ため息をつく。
「別に、ただ……みんなが幸せになれる道があるといいですね、と話していただけです」
……なんだそれは。抽象的すぎてよくわからない。
眉根を寄せ怪訝な顔をする俺に、航紀はさらに続けた。
「それと、ウサギもお似合いですが、私なら観月さんにはサキュバスの衣装でも着せたいですね、と」
サキュバス……あの、悪魔の一種で男性に淫らな夢を見せるという?
フィクション作品ではよく露出度の高い黒のコスチュームで描かれているが……まさかそれを叶未に?