エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました

「ひ、人の妻でハレンチな妄想をするな!」
「冗談ですよ。では、あとは夫婦でごゆっくり」

 航紀はにこやかにそう言い残すと、社長室を出て行った。すかさず叶未のもとに駆け寄った俺は彼女の隣に腰掛け、間近から顔を覗く。

「本当に、航紀になにもされてないか?」

 叶未はニコッと微笑んで頷き、俺の腰からぶら下がるオオカミの尻尾に手を伸ばした。

「大丈夫ですよ。仕事のことや、他愛のないお話をしていただけです。ふふっ、フサフサ」

 航紀はともかく、叶未がそう言うのなら信じることにしよう。

 でも、あまりに叶未の態度が普通過ぎて、なんだか悔しい。こっちは焦って会社中を走り回ったというのに。

「叶未、警戒心がなさすぎるんじゃないか?」
「えっ?」
「ヴァンパイアは去ったが……きみの前にいるのはオオカミだってこと、忘れてるだろ」

 じりじり顔を近づけて、ウサギを追い詰める。後ずさりしようとする彼女の肩をぐいっと押して、ソファに組み敷いた。

「大和さん……?」

 潤んだ叶未の大きな瞳が、俺を誘惑するかのように揺れる。

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