エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました
紫倉さんが社長の名前を呼び捨てし、毒を吐くのには理由がある。ふたりは高校で出会って友人同士になり、同じ美大の工芸学科に通っていた旧知の仲なのだ。
ふたりとも当初はジュエリーデザイナーを目指していたけれど、紫倉さんは早々に諦めて美術教師の道へと方向転換。
就職先の学校も決まりそうだったところを、社長が『デザイナーでなくても、ジュエリーに携わる仕事を一緒にしないか?』と誘って今に至るそうだ。
だから、紫倉さんのツンツンした態度もおそらく愛情の裏返し。
どんな女性たちより、実は紫倉さんが最も手ごわいライバルなのでは?と勘繰ってしまうくらいだ。
恋愛対象でなくてもいいから、紫倉さんくらい社長と親しくなれたらな……。そんな淡い期待は胸にしまい込み、まずは秘書としての信頼を深めるのが先決だと思い直す。
「大丈夫です。社長のために働くのが私の生きがいなので」
恋心を抜きにしても、社長秘書という仕事にやりがいと面白さを感じているのは本当だ。
自分でも気づかなかったその適性を見抜き、私を秘書に抜擢してくれた社長には感謝の気持ちしかない。