エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました
このウサギ、今ここで捕食したい。
仮装のせいなのか、思考までが肉食獣と化してくる俺だが、わずかに残る理性が頭の中で呟く。
いくらパーティーの最中とはいえ、さすがに……まずいだろう、ここでは。
俺は昂る熱情を吐き出すようにして深く息を吐くと、叶未のおでこに軽く口づけをして、耳元で囁いた。
「帰ったら、覚悟しておいて」
叶未は顔中真っ赤にして、ただこくんと頷いた。そのやり取りである程度満足した俺は、叶未の体を起こしてやり、「そろそろ会場へ戻ろうか」と立ち上がる。
するとちょうどその時、ノックもなしに社長室の扉が開く。そこから現れたふたりの人物を目にした瞬間、俺の口から自然と「げ」という声がこぼれた。
年甲斐もなくウエディングドレスの仮装をしているのは、母。その隣でモーニングコートを着こなしているのは、いつの間に帰国したのか、久々に会う父だった。
ふたりの仮装は結婚式がテーマらしい。
「大和、やっぱりここにいた~。会場を覗いても姿が見えないから探したわ」
「久しぶりだな息子よ。もしかして、そちらのかわいいウサギさんが奥さんの叶未さんかい?」
会話から状況を察した叶未は弾かれたように立ち上がり、深々と両親に頭を下げる。